スーツの面白さは、限られたアイテムの中で生まれる小さな違いにある。Vゾーンの色合わせやパンツの丈、靴とのバランス。もちろん、ソックスだって疎かにはできない。三者三様のスーツスタイルを持つ3人に、足元まで含めた着こなしの流儀を教えてもらった。

(プロフィール)
安武俊宏さん
ecle inc.主宰。1985年福岡生まれ、札幌育ち。文化服装学院卒業後、2005年にビームスへ入社。販売員、プレスを経て、販促分野を統括するプレスチーフとして活躍。その後独立し、9月にecle inc.を設立。国内外複数のブランドのプロモーション戦略を担う。母校・文化服装学院で教鞭を執るなど、多方面で活動。

福島 ティアモ 雄介さん
メンズバイヤー/ファッションディレクター。
1986年東京生まれ。大学卒業後、アパレルでの契約社員を兼任した後、ナノ・ユニバースへ。レディースのMDなどを経験し、2018年よりメンズのドレスバイヤーを務める。2021年3月からフリーランスとして独立し、大手百貨店や有名セレクトショップ、ブランドとの別注商品の企画をディレクション。2026年3月より再スタートした、MCを務めるYouTubeのファッション番組チャンネル「TIAMO LA MODA 2」を配信中。

田島 佑介さん
高円寺に店を構えるセカンドショップの名店サファリの事業戦略部長を務める。古着の王道であるアメリカンカジュアル服の古着に精通するだけでなく、イタリアやフランス、イギリスのヴィンテージウェアを扱うこともあり、欧州の名作古着にも造詣が深い。伊勢丹メンズ館のイベントでは、ヴィンテージシューズの販売を企画することも。

-今日のスーツのポイントは?

安武:今日はミラノのテーラー、サルトリア・サンノーロで仕立てたビスポークです。仮縫いを2回して、完成まで約1年。テーラーが持っている生地の中から選んだグレーのキャバリーツイルで、秋や春など季節の変わり目に着られるスーツです。仕上がってきたのが一昨日なので、今日が初めて。まだ馴染んでいないんですが、構築的なスーツなので、シャツも少し生地感のあるものを合わせて、ネクタイだけ明るめの色を選びました。

-シックな中に、ネクタイで少し軽さを出しているんですね。

安武:最近はスーツスタイルにあまり色を使う気分じゃないので、全体はモノトーンでまとめています。

田島:私は昨年、大阪でヴィターレ・バルベリス・カノニコの生地を使って仕立てたスーツです。ブラウンのヘリンボーンで、夏の日差しの中にあえてブラウンを合わせるのが今日の気分でした。イタリアらしく“アズーロ・エ・マローネ”を意識して、ネイビーのネクタイを合わせています。シャツはブルーにしようかと思ったんですけど、あえて薄いイエローのニュアンスカラーを入れて、少し雰囲気をぼかしました。

ティアモ:僕はサルトリア ダルクオーレでス・ミズーラしたものです。真夏以外の端境期に着られる生地で、クリスティーナ・ダルクオーレに「似合いそうな生地はこれかな」と選んでもらいました。パンツはグルカ仕様で、シルエットも少し太め。全体は極力色を使わず、グレートーンで統一しています。無地のシャツにブラックタイでもいいかなと思ったんですけど、それだと少しシンプルすぎるので、差し色としてパープルのネクタイを選びました。


-スーツを着る日は、まず何から決めますか?

安武:僕は基本的に靴から決めます。靴はほぼ天候次第ですね。天候によって靴が決まって、そこからコーディネートを考えていきます。雨が降っていたら表革の靴は基本的に履かないですし、ラバーソールの靴もあまりスーツには合わせないので、「じゃあスエードかな」くらい。あとは気分ですね。「最近これ着てないな」とか、「これ買ったばかりだから着よう」とか。スーツを決めて、そこからシャツ、ネクタイを合わせます。

ティアモ:僕は前日に決めるときもあれば、当日に決めることもあるので、本当にバラバラです。安武さんが言ったように靴は天候に左右されますけど、スーツ自体はそこまで左右されないですしね。

田島:僕も結局、気分です。カジュアルに寄せるか、きれいに寄せるか。その日の気分と、天候とか、どういうパンツを穿くかとか。

ティアモ:あと、みんなあるあるだと思うんですけど、新しいものを買ったら、そこから決めることもありますよね。ネクタイを買ったら、そのネクタイから逆算して考えるとか。

安武・田島:ああ、それはある。

-新しく買ったものは、やっぱり主役にしたくなりますよね。

ティアモ:そうですね。僕らはスーツを着る頻度が高いので、余計にそういう決め方になるのかもしれません。


-靴下はどうやって決めていますか?

安武:僕は一番最後ですね。

ティアモ:僕もです。

田島:僕も一番最後ですね。

安武:ただ、靴下の合わせ方は3人とも結構違うと思います。


それぞれ、どんな違いがありますか?

安武:靴とパンツとの相性を見るのは3人とも一緒だと思いますけど、僕は基本的にほかのアイテムの色を拾わないですね。ネクタイにピンクが入っているから、ソックスもピンクにするとかはやらない。合わせるとしても、少し色をずらしたり、同じ色ではなくグラデーションにしたり。もしくは全然合わせない。

ティアモ:確かにその印象があります。

安武:カラーソックスを入れるときは、他を引き算します。全体の色数をかなり抑える。それ以外のときは、靴下だけ目立たせることはあまりなくて、むしろ極力目立たせたくないですね。ただ、それはそれで絶妙な色味を選ばないといけないので難しいんですけど。

-田島さんは、ソックスを差し色にしていますね。

田島:僕はどちらかというと、靴下で遊びたいタイプです。カラーソックスを合わせたり、あえて外した色を入れたり。逆にチャコールやグレーは、フォーマルを意識したときじゃないとあまり履かないかもしれない。色や柄をアクセントにすることが多いですね。

-色を入れるときのこだわりはありますか?

田島:やっぱりパンツと靴下の相性ですね。そこを見ながら色を足していく感じです。

-Vゾーンの色を拾うことは?

田島:そこはあまり考えないですね。靴とパンツとの相性を気にします。

-ティアモさんはどうですか?

ティアモ:靴に合わせる、パンツに合わせる、というセオリー的な選び方ももちろんします。でも全身で見たときに「ちょっと間延びするな」と思ったら、田島さんみたいに全然使っていない色を入れたくなるタイプでもあるので、スーツにもカラーソックスは普通に合わせます。ただ、僕も色を拾いすぎるのはちょっと恥ずかしい。カラーソックスだけ違う色なのに、全体には馴染んでいる、くらいが洒落ていると思います。

田島:わかります。

ティアモ:自分の中で好きな色の組み合わせもあって、例えばブラウンにラベンダーとか、グレーにグリーンとか。これはスーツに限らず、カジュアルウェアでも同じですね。今日みたいに、ネクタイにわかりやすく色が入っている日は、ソックスでさらに色を足すことはしないかな。なので、Vゾーンの色に合わせにいくことはあまりないですね。

-三者三様ですね。靴下を買うときは、どこを見ますか?色や柄だけでなく、厚みや素材、丈も気にしますか?

田島:気にします。色や柄はもちろん、厚さが違えば合わせる靴も変わってくるので。

安武:僕は「これ、いい色だな」と第一印象で買うこともあります。

ティアモ:やっぱり色はみんな見ますよね。ただ、靴下って実際に履いてみないとわからない部分もあるじゃないですか。だから、一度履いて安心している形があれば、そこから色違いや柄違いを買うことも多いです。

-気に入ったブランドからリピート買いされたり?

田島:それはありますね。

ティアモ:下着と似ているのかもしれないです。安心感があるとか、自分の足に合うとか。そういうブランドから新しい色が出たら、それを買うという選び方になっていますね。

-座ったときに見えることを考えて、ソックスの丈も気にしますか?

田島:やっぱりスーツだったら、ロングホーズじゃないと変かな、という気はしますね。

ティアモ:今は絶対にロングホーズじゃないといけない、ということではないと思うんですけど、僕は一度履いたら抜け出せなくなったタイプです。スーツのときはロングホーズがないと、という感覚になっていて、夏でも普通に履きますね。

-黒、グレー、ネイビー以外で、意外と使いやすいソックスの色はありますか?

ティアモ:僕が今日履いているダークブラウンとか。

安武:ブラウンは絶対持っていますよね。

ティアモ:そうですよね。

田島:僕はバーガンディも好きです。

安武:バーガンディもいいですね。

-グレーやブラウン系のスーツにも、ちょうどいい味付けになりそうですね。

安武:そうですね。例えばVゾーンが少し赤っぽいときとか。ブラウンにもグレーっぽいブラウンがあるので、そういうときに深いワインレッドのソックスを合わせると、しっくりくることがあります。

-今日ティアモさんが履いているTabio MENの9×2リブソックスも、少しグレー寄りのブラウンですね。

ティアモ:そうですね。いわゆる茶色が強いブラウンではないです。こういうチャコール寄りの色なら、僕は黒い靴にも合わせます。さっきのセオリーでいうと、スーツとも靴とも違う色なんですけど、その間をつなぐ緩和剤みたいな感覚ですね。「色は入れたい。でもカラーソックスほど強くはしたくない」というときに、結構使います。

-見事なお手本ですね。

ティアモ:いやいや(笑)。でも、茶色の靴下を毛嫌いする人って結構いませんか?黒、ネイビー、チャコールがあって、その次に茶色、という人も多いと思うんですけど、茶色の種類にもよると思うんですよね。こういうダークトーンでグレー寄りのブラウンなら、かなり使いやすいと思います。

-この9×2リブソックスの履き心地はいかがですか?

安武:普段から愛用してるんですけど、まずフィット感がいいですよね。かなりフィットしますし、落ちてきづらい。あとは“もっちり感”というか。なんて言えばいいんだろう、少し弾力がありますよね。

ティアモ:わかります。密着度があるというか。落ちてこないのに、締め付け感はない。そのバランスがありますね。


ソックスが弛んでいると、見た目にも気になりますよね。

田島:イタリアのソックスとか、割とすぐ落ちてくるものも多いですからね。

安武:単純に、イタリアものはサイズ自体が大きいこともありますし。

ティアモ:足のサイズも太さも、人それぞれ違うじゃないですか。だから「このソックスはいい」と一概に言っても、その人には合わなかったりする。落ちてくるとか、リブがキツいとかって、ドレス界隈では結構議論されるところなんです。でも今のところ、僕の周りでは「Tabio MENのロングホーズ、すごくいい」と言う人しか会ったことがない。僕自身、シーズンによってウールもコットンも履いていますけど、どちらも自分の足にはすごく合っています。ここ最近の中では、履き心地は抜群ですね。

逆に締め付けが強すぎると、一日履いていると疲れてしまいますよね。

ティアモ:でもストレスでいうと、僕は落ちてくる方が嫌ですね。だったら多少キツい方がまだいい。

田島:私も落ちてくる方がストレスですね。

その両方を解消してくれる。

ティアモ:そうなんですよね。

安武:座ったときにソックスが弛んでいると、「うわ……」ってなります(笑)。精神的な苦痛というか。

ティアモ:嫌ですよね。めちゃくちゃわかります。

歩いているときにずれてくる、といった違和感はありませんか?

一同:ないですね。

安武さんは先ほど、リブの太さも見るとおっしゃっていました。ドレススタイルには、どれくらいが理想ですか?

安武:これくらいのリブの太さが、一番見栄えもバランスもいいと思います。これ以上細いと逆にカジュアルに見えるし、フラットすぎるとフォーマルに寄りすぎるというか、少し女性っぽく見えることもある。なので、これくらいのリブがドレススタイルには合わせやすいですね。

スエードの靴にも馴染みますし、表革の靴に合わせても程よいですね。光沢が強すぎると浮いてしまうし、逆にマットすぎるとカジュアルに見えることもありそうです。

安武:そうですね。ちゃんとフォーマル感もあるので、スーツには合わせやすいと思います。

ティアモ:スーツ自体の雰囲気も見ますよね。

安武:そう考えると、この品番は割とマット寄りですよね。

ティアモ:かなりマット寄りですね。あと、今日はみんな完全なレースアップのドレスシューズではないので、それも相性がいいのかもしれない。いわゆるプレーントゥを含めたレースアップのドレスシューズなら、安武さんが言っていたようなフラットでフォーマルなソックスや、少し光沢のあるものでも合うと思います。でも今日は3人ともスーツ自体を少しカジュアルに着ていて、タイドアップにも遊びを入れている。そのバランスには、これくらいがちょうどいいんじゃないですかね。

最近スーツを着るようになった人にも、手に取ってもらいやすいソックスですね。

一同:そうですね。

ティアモ:ガシガシ履いていて、洗っても伸びづらいので本当に重宝しています。