過去から現代に至るデザイン史において語り継がれてきた名作。これから後世に語り継がれていくであろう新たなプロダクトの数々。清澄白河にギャラリーを構えるtopsoディレクター関 直宏さんに、プロダクト、空間、そしてそれらに宿る美意識と価値観について伺った。

イタリアンデザインの魅力をより身近に感じて欲しかったんです
-topsoを設立された経緯をお聞かせください。
関:topsoを設立する前に、同じく清澄白河で30年代から80年代まであたりのヴィンテージ家具を扱うstoopというギャラリーを運営していた兼ね合いでイタリアに買い付けに行くことが多かったんです。そこでヴィンテージや現地のギャラリーの展示で目にする作品の多くが未だに同じメーカーで現地の職人さんによってMADE IN ITALYで作り続けられていることを知ったりして、ヴィンテージだけでなく文化として受け継がれてきた現行のアイテムももっと日本の方に知ってもらいたいなと感じたことがきっかけです。

-topsoではイタリアンデザインのプロダクトを数多く展開されていますが、そういった背景があったのですね。
関:イタリアのデザインって世界的に非常に評価が高いのですが、日本だとまだまだその認識が浸透していないのが現状なんです。それをヴィンテージだけでなく新品の世界でも提案したいという気持ちがありました。日本だと新品の家具を買われる方の多くは新品で揃えますし、ヴィンテージを買われる方はヴィンテージで固める傾向にあると思います。海外に目を向けるとその境目が日本に比べて曖昧で、新品もヴィンテージもコンテンポラリーもミックスするスタイルが主流なので、そういった価値観を提案するためにもヴィンテージを扱うstoopだけでなく現行品やコンテンポラリーを扱うtopsoの役割は重要だと考えています。
多種多様なデザイナーがひしめくイタリアならではのデザイン
-イタリアのプロダクトにはどういった魅力があるのでしょうか。
関:一言で言い表すのは難しいですが、デザインの幅でしょうか。ジオ・ポンティを代表とするミッドセンチュリーの文脈から生まれたデザインから、ポストモダニズムの思想を反映させたデザインまで、その時代によって様々なプロダクトが生み出されてきました。時代によるデザインの変遷はイタリアに限った話ではないと思いますが、イタリアはデザインを大切にするプロダクションが早くから存在し数多くのデザイナーが起用されてきた背景があったので競争や切磋琢磨が新しい表現への創作意欲を掻き立て、より多種多様なデザインが生まれたのかもしれません。

-topsoのギャラリーではガラスやレザーを用いたプロダクトが目を惹きます。
関:そうですね。やはりイタリアのレザーというのは洋服なんかでもそうだと思いますが、クオリティが高くエレガントな表情が美しいですし、高度な技術が求められるガラス素材もイタリアのものづくりの魅力を強く感じられる要素だと思います。個人的には、フィリップ・スタルクがデザインを手掛け2024年にGLAS ITALIAからリリースされたクリスタルスツールやテーブルは非常に気に入っています。スタルクがスペインのDISFORM社やフランスのXO社でデザインを手掛けていた時代のプロダクトのような、スタルク初期のミニマルなデザイン思想が感じられるんですよ。もちろんガラスの製品なので構造上削ぎ落としたデザインに行き着いた部分もあると思いますが、ただシンプルなだけでなくちゃんとディテールも効いていて研ぎ澄まされたセンスを感じます。

実用品とアートの狭間にあるプロダクトがもたらす豊かさ
-関さんが日頃、そしてこのギャラリーの空間を構成する上で意識されていることはありますか。
関:やはりガラスの製品が一つの鍵になっている気がしますね。うちで扱うプロダクトは冒頭でも申し上げたように多種多様な幅広いデザインのものを扱っているので、ガラスの透明でありながら物質としてもしっかり主張する存在感が他の力強いデザインの家具を引き立たせてくれるというか。そのバランスが余白を生み空間がより引き締まると思っています。
– 一般家庭でこういった家具を落とし込むために必要な考え方を教えてください。
関:あまり難しく考える必要はないと思いますが、空間のスパイスとして取り入れるのが良いのではないしょうか。独特の存在感があるデザインの物が多いので、それを一つのアートとして捉えて配置すると馴染み良いものです。絵画や彫刻作品、オブジェなんかを飾るように、さらっと取り入れてあげるとシャープな雰囲気が演出できますよね。例えばフレンチの素朴なデザインの家具でまとめた空間にアクセントとしてイタリア物が入ってきたりするだけでぐっと印象が変わるはずです。
-そこにあるだけで良いといいますか、見て楽しむことができるのも魅力なんですね。
関:もちろん実用品として日常の中で使用されるということが前提ではありますが、機能性よりもデザインを重視したプロダクトが多いことはイタリアンデザインの特徴としてあると思います。そこにまたある種の豊かさを感じるのかもしれません。

日本の伝統を再解釈し、世界に届けたい
-関さんに愛用して頂いているソックスはSUPER120‘sという繊維の細いウールを使用しています。ソックスとしてはオーバースペックな繊維かもしれないですが、これもまた一つの豊かさのように思えます。
関:スーツなんかで目にする素材ですよね。実用面では仮にそこまで必要のない部分であったとしても、そういった細部にこだわりを持ってものづくりをされている姿勢は、我々が扱うプロダクトとも通ずる部分があります。そういえばTabio MENは日本の工場や職人さんをとても大事にされてものづくりをされていると何かの記事で読んだことがありました。これまでイタリアのプロダクトにフォーカスした話をしてきましたが、topsoでは日本の伝統工芸や職人さんの技術を未来に継承すべく、アートやインテリアの文脈で世界に提案するという取り組みも行なっているんです。

-具体的にはどんなものを提案されているのでしょうか。
関:一例を挙げると、金閣寺の修繕など主に仏壇や仏具に漆を塗って仕上げをされている職人の方々と共同開発して、漆のアートパネルを販売しています。彼らの熟練した技術を昇華した「変わり塗り」という新たな技法によって生み出される漆の新たな表現方法で、従来の漆のイメージを覆す独自の色やテクスチャーが魅力です。どうしても日本の伝統工芸を見直す取り組みって侘び寂びの表現になることが多いじゃないですか。世界に発信していく上では、例えばイタリアのシャープでデザインが効いたものなど、海外の力強いプロダクトと一緒に取り入れても相性の良い別の切り口でのアウトプットが大切なのではないかと考えています。

世界って広いなということを体感し続けるために
-世界から日本に、日本から世界に様々な発信と提案をされている中で海外出張も多いですよね。
関:仕事というよりもライフスタイルの一部として海外に行っていると言った方が正確かもしれません。海外に行って現地の人たちと話して、デザインだったりアートだったり、まだ知らない世界やカルチャーに触れて世界って広いなといつも感じさせられるんです。常に新たな刺激を求める好奇心が僕の原動力になっています。
-関さんはいつもドクターマーチンの靴を履かれていますが、出張でもそのスタイルは変わらずですか?
関:そうですね。スニーカーみたいに履いているので楽なんですよ。着る洋服を考えるのも少々億劫なので、基本的に洋服は黒しか持っておらず、自ずと靴も黒いマーチンになっています。

-余計な思考を削ぎ落とすことでより感覚も研ぎ澄まされそうです。となると、ソックスも当然黒を選ばれるわけですね。
関:はい、必然的にそうなります(笑)
