クラシカルで上品なゆるさを
古い編み機を受け継ぐニッター社との協業から生まれた「リッチェル」。かつてルーズソックスに使われていた独特の編みを再構築し、“締めつけすぎない快適さ”を現代の感性に置き換えた。
履き口と足首のあいだで糸を一度切り替えるという特殊な構造が、柔らかくもだらしなくならないフォルムをつくる。60番手の細糸を多本取りで編み上げ、細糸ならではのなめらかな肌ざわりとぬめりのある光沢を宿した。「太糸=カジュアル」「細糸=ドレス」という定説を軽やかに超えて、“ゆるくても上品”という新しい美意識を描いた。懐かしさの中にモダンが息づく、その独特のバランスがリッチェルの真骨頂である。
希少な編み機と職人技術の結晶
リッチェルを編み立てるのは、いまや国内でも数台しか稼働していない希少な編み機。
16本もの糸を同時に走らせるため、テンション調整はわずかなズレも許されない。
職人たちは一足ごとに糸の張力を微調整し、均一な美しい編み目を整えていく。さらに、生産効率を求めず、あえて“一つ口編み”という非効率な手法を選ぶ。倍速で進む二つ口編みを捨て、時間をかけて仕上げる理由は、その方が生地の凹凸が少なく、より滑らかに仕上がるから。スピードよりも美しさを優先する――その決意が、クラフトマンシップの証としてこの一足に刻まれている。